大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)29号 判決

原告 桑田武雄

被告 中央更生保護審査会

訴訟代理人 斉藤健 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告の求める裁判とその請求原因は、別紙添付訴状(最初になすべき口頭弁論期日に原告が出席しなかつたので陳述したものとみなされた。)のとおりであり、被告の答弁は、別紙添付答弁書のとおりである。

(証拠省略)

理由

原告の求める裁判及びその請求原因は、必ずしも明白ではないが、原告に対し九州地方更生保護審査会がした仮出獄取消決定についての原告の審査請求を棄却した被告の昭和三九年一月二五日付裁決は、(一)原告の提出した原処分庁の弁明書に対する反論書を看過してなされていること、(二)刑の時効の判断に当たり、執行済みの期間を控除した残余刑を基準とせず、宣告刑を基準とし、そのため前者によれば、すでに刑の時効が完成しているのに、これを未完成としていること、(三)本件仮出獄取消決定は、仮出獄後八年以上経過してなされたものであるが、その間原告は、再三他事件により服役しており、関係行政機関相互の連絡が十分に行われておれば、原告の所在は早期に明らかとなつたのに、その怠慢により、処分が著しく遷延し、原告は不利益を被つていること、以上の三点において違法であるから、その取消しを求めるというにあると認められる。

よつて、判断するに、被告が原告の審査請求を審理するに当り、原告より提出された原処分庁の弁明書に対する反論書を看過したまま裁決をしたことは当事者間に争いがなく、被告にその事務処理上非違の存したことは明らかであるが、その形式及び体裁よりしていずれも真正に成立したものと認むべき乙第二号証(審査請求書)及び同第四号証(弁明反論書)によれば、原告が原処分庁の弁明書に対して提出した反論書(乙第四号証)に記載されている事実は、ほとんど原告の審査請求書(乙第二号証)の繰り返しに過ぎないことが明らかであるところ、行政不服審査法が、審査請求人に対し反論書提出の機会を保証した趣旨は、審査請求人に対し十分主張を尽させ、もつて裁決の公正妥当をはかろうとするにあると解されるから、審査庁において審査請求人の反論書を看過し、その結果実質的に審査請求人に主張を尽させないまま裁決をした場合、その裁決は違法と解すべきことは当然であるが、反論書に記載された事実が審査請求書の繰り返しに過ぎず、なんら新たな主張を含まないような場合には、たまたま反論書を看過して裁決がなされても、審査請求人の主張を無視した裁決とはいえず、またそれによつて裁決の結論になんら影響を及ぼすものではないことは明らかであるから、これをもつて直ちに違法と断ずるには当らず、従つて被告の裁決は、原告の反論書を看過したとの理由のみで、違法と解することはできない。また、原告が右裁決の違法事由として主張する時効完成及び行政庁の職務怠慢の点は、原処分たる九州地方更生保護委員会の仮出獄取消決定の違法を主張するものであるから、行政事件訴訟法第一〇条第二項により、被告の裁決の違法事由として主張することは許されないものである。(のみならず、刑の時効の時効期間判定の基準となるべき刑が、宣告刑を指すことは刑法第三二条の規定上明らかであつて、執行済みの期間を控除した残余刑を基準とすべき旨の原告の主張は理由がなく、また、原告の所在調査に関し、行政機関相互の連絡が不十分であつて、発見が遅れたとしても、そのことだけで、原告に対する仮出獄取消決定が著しく当を失した措置として違法となるものと解することはできない。)

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 浜秀和 町田顕)

(別紙)

訴状

(当事者の表示省略)

請求の趣旨及び理由

一、反論書確認の存否

二、時効期間基準

三、行政庁の職務怠慢

請求の原因 昭和三十九年一月二十五日審査請求に係る裁決

立法の方法 行政事件訴訟法第三条第三項

趣旨

昭和三十九年一月二十五日(昭和三十九年一月二十九日教示)

法務省保護局中央更生保護審査会

委員長 大塚今比古

委員  一木[車酋]太郎

〃   神田多恵子

〃   松岡武四郎

以上合議評定

一、反論書確認の存否

九州地方更生保護委員会が請求人に対してなした仮釈放取消処分に関する審査請求につき、昭和三十九年一月二十五日付中央更生保護審査会に於て、請求を棄却する旨の裁決理由に於いて、

一、審査請求人の請求の趣旨及理由

記録に編綴されている同人提出の審査請求書を引用する。

二、処分庁の弁明

記録に編綴されている同庁提出の弁明書の記載を引用する。

三、審査請求人の反論

処分庁の弁明に対して請求人からは反論がない。

右項目中、三、審査請求人の反論につき検討するに、審査庁は請求人宛、弁明反論書提出を自昭和三十八年十二月二十日至昭和三十九年一月六日と限定、仍而請求人は昭和三十八年十二月二十七日付法務省保護局中央更生保護審査会宛、文書を郵送、審査庁は処分庁の弁明に対し請求人からは反論がない。とあり(昭和三十九年一月二十九日教示)請求人は裁決書にもとずき、同審査会宛弁明反論書の到着、所在の有無について厳重抗議を申入れたことに対し、同庁は急拠、文書の調査に着手し、その結果郵送文書は他郵便物の下積みとなつて現存することを確認した旨同日至急通報あり、同審査会は合議評定に先だち、請求人宛文書提出の意思ありやにつき通知し、且つこれを確認しなければならないことであり、裁決にあたつてはあらかじめ関係文書の調査につき慎重を期し、且つ良識にもとずいて裁決すべきではなかつたか。遺憾ながら満足すべきものでなかつたのみならず、同庁は中央直轄であり、行政の完璧を期すべきは、勿論疎漏、曖昧なる裁決等断乎として許容せらるべきでないが、同審査会は関係文書が、完備しておらないことを確認しておきながら、敢て強引に裁決を進行せざるを得なかつた経過については関知する域ではないが、同庁が文書の調査に於いて検覈の域を出でずして裁決にいたつたことは学識経験ある関係者の態度としては三省すべきであり、信念人格の価値感に於いて専横さを如実に暴露し、本質的に自主性の遂行と言わなければならない。

換言すれば公権力の行使にあたつては権力の極端なる圧力であり、基本的人権の享有と行政審査の矛盾点といわなければならない。

二、時効期間基準

(時効期間の基準)刑法第三十二条に於いて

時効は刑の言渡確定したる後を基準とするが故に、これを本件について権討するに、

刑の言渡確定   昭和二十七年

仮出獄年月日   昭和三十年七月

仮出獄の取消決定 昭和三十八年十月九日

刑法第三十二条は「刑の言渡確定したる後」を基準とすることによつて、有効に期間経過完成し、爾後に於いて仮出獄の取消決定しているが、刑の確定後を基準とする時効基準に則り、仮出獄取消決定は、法の解釈を誤つたものであり、仮出獄取消の措置が、なされたことは明らかに違法である。審査庁は権限を有する国の機関に於いて請求人の所在が確認出来なかつたという止むを得ない事情によるものであつて、これをもつて違法とすることは出来ずと、苦しい弁明であるが、審査庁と系属の関係機関に於いて行政の系列は完璧であつた筈であり、本件は刑の言渡後拾年以上を経過し、時効完成後に於いて監査中、遇然文書の発見に到達し、仮出獄取消決定の運びとなつたものと判断せられる。

審査庁の裁決に関しては、合法的解釈の必要性と根拠を缺き、権力と真実の衝突であり、原始的且つ徹底的に奪う解釈と言わなければならない。

刑の期間経過及び時効制度

審査庁は刑の時効の本旨からみて、刑法第三十二条に於いて時効期間の規準となつている刑は宣告刑を指すものと解すべきであり、

本刑は昭和二十七年福岡地方裁判所に於いての言渡刑は懲役四年であるが、刑の言渡確定後、宮崎刑務所に於いて仮釈放となり、執行済(刑の期間経過)は二年八月以上であり、宣告刑は執行済刑によつて、自然変更となり、一年二月十日が残刑として時効に対応し宣告刑は刑の期間経過によつて残刑が時効に対応することは当然であり、審査庁は、時効が完成したとされるには残刑ではなくして、宣告刑に対応する時効期間が経過することが必要である、とあり、

刑法第三十二条に於いて、時効完成は

「宣告刑に対応する時効期間が経過することが必要である。」と規定しておらない。

所謂、審査庁の解釈は確定刑に逆行して時効基準は宣告刑を指すものと解すべきであり、と論ずるが、執行済となつた刑についてもこれを算入し宣告刑に対応して時効基準とする解釈は非合法的であり刑法第三十二条の時効期間の本旨は執行済刑について(刑の期間経過)時効基準とする。と規定しておらない。同法は裁判所が刑を言渡した直後の解釈であつて、主として保釈条件基準として適用するものであつて時効基準は一年二月十日が本刑として時効期間に対応することは適切であり、これに伴なつて時効期間の基準は一年二月十日が時効基準となる論拠は有効であり、

刑法第三十二条を適用し、

「三年未満は五年」を採用し、時効完成を主張する次第であります。

(考証)

株式組織によつて成立した会社が外国商社からの発注を受け、商品を発送したが、外国商社は、商品が粗製で規格外のものが多く、いちじるしく商品価値が低下し、販売の視野が極度に制約せられ、且つ商品が全く売れないという状態となつた。これがため外国商社から商品の引取り方を要請する電文に接した。これがため会社が蒙むつた損害は大きく、加うるに経営困難におちいつた。これに伴なつて会社は清算書を作成して、その内容を公告した。それによると会社の資本金拾億、全額払込で、損害額六億七千万円であつた。

この会社は残額資産が資本金に対応する効果力は消滅していることは同調し得られることであり、資本金拾億であつたから、清算後に於いても、その価値を認容せられたい。といつて会社が全力を集中して経済界に要請しても、だれがその価値性について同意するものがあるでありましようか。所謂、資本金拾億は清算後に於いても、その価値性があります。と主張しているのが、審査庁の言い分である。

「形あるものは減ずる」この語は近代に於ても依然として介在するという事実の真証である。

太陽が地球の周りを動くと考えた天動説と地球が自転説の二つの学説は、何れが真実であるか、真理とは認識の概念である。したがつて真理とは理論的に相寄る不可缺のものであつて、倫理の湧現こそ崇高なる発芽が生息くのではなかろうか。

三、行政庁の職務怠慢

昭和三十八年十二月十六日(十二月二十日教示)

九州地方更生保護委員会第二部

部長委員 田中政応

委員   進豊紀

〃    片山九四郎

以上合議評定による仮出獄取消決定につき、これを本件について権討するに、

一、弁明書(九州地方更生保護委員会提出)参照

関係機関の調査及び通知、通報が必ずしも完璧に行われたものとは思料されぬ点はあつたが、とあり、

昭和三十二年八月三十一日、同庁がなした保護観察停止後実に拾年、同委員会が必要なる授権の欠缺乃至は調査及び通知、通報を怠り、漫然と徒食し、依然登庁のみに専念し概念的に飽和、相剋による粉飾の全貌であり、権限を有する行政機関の実態を抉るに足る事実の反証であり、健全なる行政の効果率を阻害し、無能さを露呈し、

仮出獄について、処分庁は、遵守事項の違行為について関係機関は刑務所と連絡を保持し、

(1) 仮出獄期間完成前に犯した罪については、処分、通知、通報は可能であり、

(2) 仮出獄となつた者の身分帳が刑務所に保管されているから、所在不明となつた者について処分庁は速かに仮出獄者が、他の罪若しくは、遵守事項の違反者に対し、通知通報は事務の帰属確認によつて可能であり、

審査庁は権限を有する国の機間に於いて請求人の所在が、確認出来ず、若しくは請求人が保護観察の停止を受けているものであることを確認出来なかつたという止むを得ない事情によるものであつて、とあり、

(1) 関係機関は事務の承継、確認によつて達成せらるべきであり、

(2) 刑務所の関係文書は完全編綴され、刑の執行中は関係文書、身柄は附帯行動であること。

権限を有する国の機関機構は必要なる授権の承継に皈納せらるべきであり、単に遺憾の点はあつたと弁明するが、

遺憾、いかん、訳、のこりおしきること、とあり、

職務怠慢を確認して認容し得ないのみならず、同庁は、これを以つて違法とすることは出来ない。と裁決しているが、本件は、職務怠慢によつて、時効えの領域に到達したことは事明の理であつて、職務怠慢の責は免れ得ないものと断じて然るべきである。と判断を下す次第であります。

(別紙)

答弁書

請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

一、反論書について

昭和三八年一二月三〇日、原告から被告に反論書が提出されたこと、被告において右反論書が提出されていることを看過して裁決したことは認める。

しかしながら右反論書において原告が原処分不服の理由として主張していることは、先に提出された審査請求書に記載された理由の繰り返えしにすぎず、右審査請求書の内容に何ら追加もしくは変更する主張はなされていない。およそ、行政不服審査法第二三条において反論書提出の規定を設けた趣旨は、審査庁が審査請求について審査する過程において、処分庁の弁明に対し、請求人に反論する機会を与えて、請求人の主張を尽させ、裁決に当つては申請人の主張を十分参酌しようとするにあるが、本件反論書には前記のとおり新たな主張もないので、前記看過は本件裁決の結論に何ら影響を及ぼすものではなく、また原告の主張を無視して裁決を行なつたともいいがたい。したがつて右看過をもつて本件裁決を違法とする理由とはなしがたい。

二、時効及び行政庁の職務怠慢について

(一) 原告の時効及び行政庁の職務怠慢に関する主張は、いずれも原処分の違法を主張するもので、裁決取消の訴である本件訴訟において主張することは許されないものである。

(二) なお、原告の右主張に関連し、本件行政処分等の経緯を述べると次のとおりである。

1、昭和二七年一二月九日、福岡地方裁判所において、窃盗、詐欺、同未遂罪により懲役四年、未決通算九〇日の判決宣告。同二八年一月九日、判決確定、同日刑期起算。宮崎刑務所において服役開始(未決法定通算一三日)。

2、昭和三〇年七月一九日、九州地方更正保護委員会の決定により宮崎刑務所を仮出獄(執行済期間二年六月一〇日)。福岡保護観察所において保護観察実施。

3、昭和三〇年八月三〇日、九州地方更正保護委員会において所在不明のため保護観察停止決定。同年九月六日、同決定効力発生。

4、昭和三一年七月二三日、大阪簡易裁判所において、窃盗、同未遂罪により懲役二年六月の判決宣告。同三二年一月五日、判決確定。京都刑務所において服役し満期釈放。

5、昭和三四年二月二八日、大阪簡易裁判所において、窃盗罪により懲役一年六月の判決宣告。同年三月一五日、判決確定。大阪刑務所において服役し満期釈放。

6、昭和三七年一〇月二六日、広島地方裁判所において、窃盗、詐欺罪により懲役三年の判決宣告。同年一一月一〇日、判決確定。同日刑期起算。鳥取刑務所において服役開始。

7、昭和三八年七月三〇日、中国地方更正保護委員会において保護観察の停止を解く決定。

8、昭和三八年一〇月九日、九州地方更正保護委員会において、仮出獄取消決定。同月一四日、同決定効力発生。

立証方法〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例